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48話 重い決意を持ち上げ

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-05-22 07:02:56

「わぁ……見たことない車だ。これって高級車なのかな?」

「そうでしょうね。分かってると思うけど、絶対汚したりするんじゃないわよ」

訓練合宿の日。私の家の駐車場に高級車が駐まる。私は家に鍵をかけその車を眺める。

「やぁ君達調子はどうだい?」

動きやすい半袖半ズボンの格好の橙子さんが高級車から降りてきて、反対側のドアからはジャージ姿の健橋先輩が出てくる。

「もちろんバッチリですよ! 今日に向けて私は十時間は寝ときましたから!」

「アタシもバッチリです」

「なら良かった。じゃあ早く行こうか。運転は執事がしてくれるから気にしないで」

執事。本当に漫画とかで見るようなお嬢様で、私達とは住む世界が違うのだと実感する。

そんなことはさておき、私達二人は車に乗り込んで目的の合宿所がある森まで向かう。

「ではお嬢様私はこれで。深く詮索するなと奥様に言われておりますのでしませんが、お怪我のないように」

「ありがとう。仁も事故を起こさないようにね」

目的地に着き少し歩きリンカルが事前に手配してくれた合宿所に向かう。話も通してくれているらしく、ここには一週間誰も来ないらしい。

「おーいこっちこっち!」

合宿所まであと一歩という場所で生人君が木の枝上から手を振りそこから跳んで着地する。

「ちゃんと来てくれたんだね! これから一週間よろしく!」

私達は合宿所まで行くと割り当てられた自室に荷物を置き、その後呼び出され外に出る。みんな動きやすい服装な一方生人君は夏だというのに黒いローブを纏っている。

「生人君が色々教えてくれるってことだよね……? そんな動きにくい格好で大丈夫なの?」

「教える都合的にね。あとこれ見た目よりずっと動きやすいよ。ほら」

彼の服の裾を掴んでみるが確かに思ったより軽く触り心地も良い。

「それでアタイ達は何すればいいんだ? キュアリンが武器がどうだとか言ってたが……?」

「そうさ。いくらキュアヒーローの力があっても素手では限界がある。今キュアリンがとある武器の使用許可を取ってくれているから、君達にはそれを扱えるだけの技量を身につけてもらう」

生人君はポケットからある一枚のカードを取り出す。それを空中に放り投げると鉄製の武器が具現化し地面にグサグサと突き刺さる。

剣に槍に斧に銃。どれも地面に深く刺さっており
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